2010 年に環境⼤⾂から外⾷業界初の 「エコ・ファースト企業」に選ばれ、トップを⾛り続けています。
百瀬:ワタミは 2024年9⽉に、3回⽬のエコ・ファーストの約束を更新しました。
渡邉:エコ・ファースト企業は、各業界のトップランナーが、環境への取り組みの「先進性・独⾃性・波及効果」を評価され、環境⼤⾂と約束を交わす制度です。2010 年、ワタミはオリジナル⽇本酒びんのリユースシステムを構築したこと。それから店舗やワタミ⼿づくり厨房の⾷品残さで堆肥を作って有機農業に使い、そこで⽣産した野菜を外⾷店舗でメニューに使った⾷品リサイクルループの構築を⾏った資源循環で、エコ・ファースト企業に選ばれました。
百瀬:今回更新したエコ・ファーストの約束は、脱炭素、資源循環、⽣物多様性の保全、そして環境を⼤切にする⼈材を育てる環境教育という4つの分野です。
渡邉:資源循環や脱炭素に取り組むことは、今や当たり前になっています。次の重要課題は生物多様性です。「このままでは人類も他の生物も生存できなくなる」と世界中で危惧されており、企業も責任を持って取り組まなければなりません。ワタミでは2007年から人工林の森林再生活動を通じて生物多様性の保全に取り組んできましたが、今後はさらに進化させていきます。2025年4月には「ワタミ生物多様性方針」を新たに策定しました。有機農業による土壌や水質の汚 染防止、森林再生活動を通じた山地の生態系の保全、海洋生態系に配慮した水産資源の活用など幅広い活動を推進し、自然共生社会の実現を目指していきます。
百瀬:一方、今回の約束で特に難しいのが「脱炭素」です。
渡邉:脱炭素は非常に大きなテーマであり、簡単に達成できるものではありません。ワタミでは2040年を目標とし、RE100、すなわち事業で使用する電力をすべて再生可能エネルギーにする取り組みを着実に進めています。しかし、全体のCO2排出量28万tのうち電力以外が約90%を占めており、これをいかに減らすかが今後の課題です。
地球環境に貢献する 企業の森活動とワタミファームの有機農業
百瀬:森林再生活動では、岩手県陸前高田市の「企業の森」の活動が本格的に始動しました。
渡邉:ワタミグループは、公益財団法人Save Earth Foundationと協働し、未来の子どもたちに美しい自然を残すための森林再生活動を進めています。2023年にはワタミエナジー(株)とSEFが陸前高田市と連携協定を結び、2024年に「陸前高田市企業等による森づくり制度」を創設。そして今年2月に、ワタミを含む企業7社が企業の森活動を始めました。6月には「ワタミの森」の森開きと第1回森林保全活動を行いました。また、森林のCO2吸収量をJ-クレジットとして販売する仕組みも始動し、ワタミが第1号として購入しました。私たちが主導してきた取り組みですから、他の企業を巻き込みながら森林活動を盛り上げていきます。
百瀬:ワタミモデルの出発点である、ワタミファームの有機農業は、「作物をつくる」だけではなく、生物多様性保全や脱炭素など、多様な価値が生まれています。
渡邉:以前からワタミファームで育てた作物を「おいしいですよ」「健康に良いですよ」と提供してきましたが、今は農場そのものがCO2を固定したり、多様な生き物のすみかになったりしています。特に北海道の美幌峠牧場では、絶滅危惧種に指定されているシマフクロウが近くを飛来しており、牧場内の木に巣をつくるのではないかと期待しているところです。生命があふれる環境を守ることは、未来の地球を守ることにつながります。
お客様と共に進める、循環型社会への取り組み
百瀬:最近は、ワタミの循環型社会への取り組みが、お客様にも浸透し、宅食のプラスチック製弁当容器の回収率が上がってきました。
渡邉:根気強く伝え続けてきた成果ですね。使い捨てプラスチック容器の弁当箱をお客様から回収して、それを原料にして新しい容器をつくる。このサーキュラーエコノミーは世界でも画期的な取り組みです。お客様に「リサイクルへのご協力をお願いします」と地道に声をかけ、よくがんばっています。営業所長、お客様に弁当を届ける “まごころスタッフ”、そしてお客様。みんなの力で回収率が上がり、 2019年には46.1%だった回収率が2024年度には65%になりました。本当にすごいことです。1日に約21万食を提供していますから、地域のゴミ削減に大きく貢献しています。そして焼却処分しないのでCO2排出を抑え、更に海洋プラスチック汚染から海の生き物の命を守ることになります。
百瀬:循環型社会の実現には食品廃棄の削減も重要です。エコ・ ファースト企業の認定当初から食品リサイクルループに力を入れていますが、一方で食品ロスの原因「食べ残しを出さない」ことも大切です。
渡邉:食べ残しの中で特に影響が大きいのは、焼肉の食べ放題と居酒屋の宴会です。そこで、焼肉の食べ放題では「残さずに食べ切れば次回の割引券を提供する」といったインセンティブを設けたり、居酒屋の宴会メニューを個食スタイルで提供したりと工夫をしています。食べ残しがなくなることで、「全部おいしく食べられた」とお客様の満足度も向上します。環境にも、私たちの事業にもプラスとなる好循環が生まれています。
百瀬:宅食事業では新たに、「もったいないおかずプロジェクト活動」を始めました。
渡邉:工場でつくっている惣菜は足りなくなるといけないと、どうしても余分に用意する必要があり、毎日一定量が残ります。それらは鶏の飼料原料に活用してきましたが、工場で働くスタッフから「せっかくつくった惣菜を誰かに食べてもらいたい」と声が上がりました。その想いを受けて、惣菜を宅食冷蔵便で運び、本社で開催する「SAJこども夢食堂」で提供する試みです。今後は地域の子ども食堂とも連携し、活動を本格化させていきます。農林水産省の補助金事業にも採択され、本当に必要とする子どもや家庭に届ける仕組みを構築します。
「ウェルビーイング」×SDGsは一人ひとりが幸せを感じられる持続可能な世界
百瀬:ワタミでは「人を大切にする」取り組みにも力を入れています。その成果が、社員のエンゲージメント向上や離職率の低さに表れていますね。
渡邉:ワタミの経営理念の一丁目一番地は、「社員の幸せ」です。社員 が幸せでなければ、お客様を幸せにすることはできないし、会社も大きくなれません。2023年に人権方針を策定し、「社員の幸せ実現会議」などで一人ひとりと対話しています。その成果もあって、離職率は2020年に15.7%、2024年には10.4%と大きく改善。エンゲージメントも高まり、アンケートの回答では「自分の会社を誇りに思う」が約8割、「ワタミのことが好き」が約9割となっています。
百瀬:最近では、世界的にウェルビーイングが注目されています。一人ひとりがやりがいや幸せを感じながら生きていく。そんなウェルビーイングとSDGsを掛け合わせた「SWGs(Sustainable⦆Well-being⦆Goals)」が新たな目標として国連でも検討されているそうです。これはまさにワタミが大切にしてきた考え方ではないでしょうか。
渡邉:その通りですね。ワタミには社員の幸せを明確にした7つの項目があります。人間関係が良くて、自分が生きがいを持って働けて、仕事を通して成長し、周りの方々に感謝される。そういう人生を送っていきましょうと。これを目指すこと自体がウェルビーイングそのものだと思いますから、これからも追求していきます。
百瀬:社内にとどまらず、取引先にも働きかけながら、サプライチェーン全体で働く人たちの人権や地球環境を守る取り組みを進めています。
渡邉:私たちにできることで一番効果があることは、「どこから買うか」を見極めて選ぶことです。人権意識が高い会社と低い会社があったら、ワタミは前者から買います。例えば今度、サブウェイのコーヒーに関してもコスタリカの農園で働く人々が十分な労働環境で幸せに働いていることを確認できたため、調達を決定したのです。「人を大切にする」ワタミの理念を世界中に広げていくためには、もっと大きな存在にならなければなりません。
ワタミは、「食を通して誰一人取り残さない社会」を実現します。
百瀬:今年4月に新たに発売した宅食弁当「好い日の御膳」は、その思いを具現化した商品ですね。
渡邉:宅食事業はもともと、一人暮らしの高齢者の方々が施設に入らず、住み慣れた地域で暮らし続けられるよう支えたい思いからスタートしました。しかし最近では、物価高や年金生活の厳しさから「お弁当が高くて買えない」という声も増えています。そこで、毎日無理なく買える価格を追求し、ごはん付きで500円、おかずだけなら 450円という、おそらくどこも真似できない価格を実現しました。
百瀬:2024年10月にサブウェイがワタミグループに入りました。 ワタミモデルの実現に向けて、どのように展開していきますか。
渡邉:サブウェイで最も重要なのは、農業との関わりです。有機農業だけでなく、慣行農業においても土や農薬をしっかり管理すれば環境にとって良いことが証明されています。サブウェイ事業では、日本中の約50の農業生産者と提携し、「サブウェイ基準」の野菜をつくります。「土壌管理」「製造工程の管理」「品質管理」という3つの観点から、専門家の意見も取り入れて独自の基準を構築しています。健全な農地を広げていくこと、それ自体がサスティナブルな社会への大きな貢献になります。サブウェイ基準を満たす、安全・安心でおいしい野菜を全国に広げていきます。エコ・ファースト企業である以上、ワタミは外食業界をリードする立場にあります。私たち自身が思い・理念の発信基地となり、意識や行動でリードしていくことが大切です。